2025/10/10 20:41

煙草を吸うたびに
いつもあの夜のことを思い出す
あの夜
あの瞬間に思いを馳せて
目を瞑り 今日もまた輪郭をなぞる
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深夜一時
知らない町の知らないサービスエリア
気温は低いが風はなく,マフラーを巻けばベンチでくつろげるくらいの夜だ
その日,僕は人生で一番長いドライブをした
日付も変わり,僕らは昨日の延長線上で息をしていた
木々に囲まれたサービスエリアに停車しているのはほとんどが大型トラックで,よそ者の僕らはまるで大きな生き物の群れにうっかり迷い込んでしまった鼠のように小さな存在だった
いつの間にか所有者が入れ替わっていた大判のマフラーからは自分の知らない香りが漂っていて
二月の冷たい空気と排気ガスが入り混じり
そんな匂いがいつか見た青いフィルターのかかったような夢の世界を連想させた
頭上に浮かぶ半分の月を眺めていると僕らは知らない間に夜の隅っこまで来てしまったのだということを強く実感させた
やけに種類の多いコーヒーを自動で淹れてくれる販売機でキリマンジャロのレギュラーを買う
彼女は間違って大きなサイズを買ってしまったと笑っていたが何の心配もなくすぐに飲み干していた
さっきまで町外れの高台で見ていた星空より幾分か迫力がなくなってしまった夜空をぼんやり見上げながら 吐きだす息が煙草の煙なのか白い息なのか分からないねと彼女が言う
僕はそうだねと思うだけで口にはしなかった
僕らはベンチに座っていて 二人の間にはコーヒーカップ2つ分の隙間が空いていた
そういえば同じ味を選んだはずなのに理由はわからないが一度お互いの珈琲を味見しあった覚えがある
そんな夜のことばかり
煙草を吸うたびに思い出す