2025/10/01 19:11

「東京砂漠」とはよく言ったもので。
僕にとって東京は無味無臭も同然だった。
ここで暮らしている人々は地方と比べると感覚に偏りがなく比較的フラットで、特筆すべき癖もなければ何をするにも当たり障りのない予定調和的な行動パターンを自ら進んで取り組んでいるようだった。
ここにはそう強いられてしまうだけの流れの速い濁流が流れていた。
治安がいいとは言えない都心の街中では故意的に目立とうと騒ぐ若者が多く居た、また反対に「自分は奴らとは違う」と、人とは違う個性を誇示しようと健気な反抗をしてみる者も同じ数だけ居た。
だがどれも一様に「東京」という大きな精密機械を構成するのに必要な歯車の一部を担っているに過ぎなかった。
都心の学生は全国区で見ると些か例外的で、下校する彼らを見てはまるで出来のいいドッペルゲンガーと欠陥のある本人が素知らぬ顔で誰も彼も入れ替わってしまっているのではないかと虚構の妄想に駆られてしまうほど、それぞれが不自然なくらいに自然な学生を演じているように思えた。
23区外の比較的落ち着いた雰囲気のある街でも学生はやはり「東京の学生」の域を出ることはなく、情報の到達が遅い地方にありがちなファッションや若者言葉などに顕著に表れる流行りの遅れも見られず、登下校の道のりが長くなるだけのいくつも連なった用途不明の畑や、存在するだけで買うものは何もない幽霊でも出そうなショッピングモールが自分の住んでいる街に存在することを連想させはしないくらい不自然に都会的だった。
東京を離れようと思ったのは、いよいよこの不毛な砂地獄に嫌気が刺して逃げ出したくなったから、という訳ではなかった。
「雪かきがしたい」理由はそんな単純なものだった。