2025/07/24 18:21
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5年ぶりとなる北海道へ。
初めて訪れたのは20歳の頃、自転車で旅をしている時だった。
夏が終わると夜は凍えるほど気温が低くなる北の大地だと聞いていた。
周るなら夏の間だなと思い2ヶ月ほどかけてじっくり走った。
無限とも思える広大な大地や生命の息吹を孕む風が本土とはまるで異なり,あっという間に心を掴まれた。
旅が終わればここに住もう。
そう思っていた。
しかし活動をするにあたり東京という土地も捨てがたい魅力があり,結局今は此処にいる。
忘れ難い体験はなかなか僕を離してはくれず,この数年ずっとあの土地に思い馳せていた。
そして念願叶って5年ぶりに北海道へ赴いた。

あの時と同じように反時計回りで各地を巡った。
自転車では到達できなかった心残りのある場所や当時お世話になった方々との再会など,9日間で周れるだけ周った。
それでもやはり,時間は足りないものだ。

あの頃はお金の無い旅で美味しいものを食べ損なっており,その悔しさを晴らすため今回はなりふり構わず贅沢をした。
この土地の食べ物はどれを選んでも美味しい。
メロンにジンギスカン,馬肉に海鮮,富良野のラベンダーソフト,それに北海道ワインを合わせていた。

次から次へと行く先へ向けて車を走らせる。
見晴らしがよく車通りの少ない一本道を走っていると鼠取りに捕まった。
80km出ていましたよ言われたがいやいやお巡りさん,僕の車を追い越す120kmの車は速すぎて貴方の目には入らないのですか。

ぷかぷか浮かぶ霧多布に生息する野生のラッコ。
近ごろはラッコが一番好きな動物だ。
僕は常にラッコの気持ちでいる。

斜里から下へ向かい神の小池へ。
神秘だ。
昔の人間がこの池を見つけた時,間違いなく不老不死の水だと思い腹いっぱい飲んだに違いない。

アトサヌプリ。
山々から硫黄が噴出し大きな結晶体もある。
この地に近づくにつれ硫黄特有の香りが辺りに充満する。
噴出口から少し離れると高原植物に近い変わった木々が一面を覆っている。

北海道はとにかく動物が多い。
牛乳のパッケージに描かれたそのまんま牛が放牧されている。
他にも馬,羊,そして野生のキタキツネ,エゾリス,ヒグマなど。
旅をしている頃,知床峠を登っている際にフェンス向こうで子連れのヒグマを見たことがある。
二匹の自由奔放な子熊とこちらをじっと見つめる母熊。
見つめ合っているうちに向こうから引いてくれたからよかったが,命のかかった危険で貴重な瞬間だった。

旅のお供にと仕立てた巾着。
14世紀のヨーロッパで作られていた手法を引用し自分なりに形として落とし込んでみた。
口を開くと開口部が王冠のように波を打つよう裁断することで美しい絞りの形状が生まれる。
留具はアンティークピューターを溶かして製作したもの。
南フランスの田園風景に似た空気感を持つこの地で肩から掛けて歩きたかった,ただそのためだけに作った。

あとは僕の原風景でもある英式庭園を多く巡った。
どうしてか昔から訪れる度に懐かしさと安堵が心を包み,なんともいえない郷愁で心が躍る。
僕の作品作りはこういった風景からインスピレーションを多く得ている。

今年は北海道も各所で災害級の暑さを記録した。
唯一冷涼な気候だったのは霧の町,釧路だ。
7月も中ほどに差し掛かっているにも関わらず昼間に19℃であった。
沖縄生まれなのに暑さにとことん弱い僕にはあまりにも魅力的だ。
今回,再度訪れてみて本気で住もうかと考えている。
暑さによる弊害の大きさを考えると,夏場でも有意義で生産的な時間を増やせるのは今後の人生をより豊かなものにするだろう。

自然とはファッションではない。
美しく残酷な現実だ。
恵まれた環境にいる人は知識としての自然があっても生身の肌で血に刻むことは少ないだろう。
一年くらい海や山の地べたで眠ってみるといい。
小さな自分が大きな自然の流れのたった一部でしかないことが分かると思う。
分からないならただそれだけ,もうおしまい。

9日間はあっという間だった。
5年の月日は感じなかった。
ついこの間訪れた,その続きのように。
また来るよ。
今回も大切な思い出をありがとう。
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