2024/11/30 15:54

蛾(ガ)が蝶(チョウ)に恋をしたらどうなるのか
帰りの終電でそんなことを考えていた。
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生物として分類上は同じチョウ目に属する二匹だが、蝶は昼行性で蛾は夜行性など行動に多少の違いも見られる。
他に例を挙げてみると
翅を立てて止まるのが蝶
翅を広げて止まるのが蛾
触覚が膨らんでいるのが蝶
触覚が細くなっているのが蛾
蝶の胴体は細く、蛾の胴体は太い
もっとも分かりやすい違いは蝶は色鮮やかで蛾は地味だというものだろうか。
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まだサンタクロースの存在を信じていたような幼い頃、小さい薄紫色の蛾を見ては「チョウチョだ」かわいいなと喜んでいた覚えがある。
少し大人になり女子を異性と認識するようになった頃、あの小さいチョウチョみたいなやつの正体は蛾だということを本で学んだ。
次の朝からその薄紫色のヒラヒラした虫をなんとなく綺麗だとは思えなくなってしまった。
翅の粉には毒があると言ってみんなが嫌うから。
子どもの認識なんてそんなものだ。
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話は戻すがまた別の話を
昔からずっと自分は人の形をしているだけで人ではないんじゃないかと感じていた。
思春期特有の現象にも思えたそれは二十歳を過ぎても変わらないままだった。
周りの人を見ているとどうしても同じ人間だとは思えなかった。
まるで自分は蝶の群れに迷って紛れ込んだ蛾みたいだなと思っていた。
今でこそ年齢や国籍、性別や趣味など全ては振り幅でしかないと認識できるが当時は分からないものだ。
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ちなみにフランスでは蝶と蛾をほとんど区別しないらしく、どちらも同じく「パピヨン」と呼ぶらしい。
もっとも現在ではパピヨンというと犬種を思い浮かべる人が多いと思うが名前の元は上記のとおり、フランス語で蝶の意味だ。
翅を広げたように大きく立った耳からそう名付けられたんだと。
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綺麗な蝶は羨ましいなと思うのが多くの意見だと思うが、蛾の中にも負けず劣らず美しい個体はいる。
名前をニシキオオツバメといい、グリーンの金属光沢を放つ前翅と暖色と寒色が入り混じる虹のような後翅をもっている美しい色彩だが、これでもれっきとした蛾だ。
僕は万人に愛されるモルフォチョウより多くの蛾の希望となるように美しいニシキオオツバメの方が好きだなと思った。
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ただ本当のことを言うと色鮮やかで評価されている蛾より、黒や灰色や茶色で構成された一見地味に思えるが見れば見るほど美しい毒々しさが魅力な蛾らしい蛾の方が好きだ。
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文を書きながら一つ思い出したことがある。
その昔、国語の授業で読んだヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」
欲しくて欲しくて堪らず盗んだ蛾の標本をポケットに押し込んでぐしゃぐしゃにしたシーンや、それをきっかけに収集を辞めることを決意した子どもが一つひとつ自分の指で標本を押し潰していくシーン。
あれらがとてつもなく頭にこびりついている。
国語の教科書に載っていた作品で、他にもいくつか好きな題はあるが特にこの物語と自分がどことなく似たような質感を纏っていて内容がスッと入ってくる感覚を覚えている。
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最後にどうでもいい話をまた一つ、僕はすずめを見るとその鳥の名前をヒヨコだと思ってしまう。
この変わった脳の癖はずっと抜けず、すずめが群がって餌をつついたりしていると、ヒヨコがいっぱい集まってると認識してしまう。
衛星を星だと勘違いしている人も多くいるだろう。
自分を素晴らしい人間だと信じて疑わなかったり。
海の向こうでどこかの少女がミサイルを流れ星だと思ったり。
だからって何がある訳じゃない、幸せなだけだ。
認識というのはそんなものだと思う。
「幸福な勘違い」
その繰り返しで僕らは今日も生きている。
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そうだ【HOUSE展】も残り2週間で始まります。
きっと面白いと思います、世界の隅が好きな方は。
【日】2024年 12月13日(木) - 17日(火)
【時】12:00 - 18:00
【場】 東京都 福生市 熊川 (中央線最寄り牛浜駅)
* 住所の詳細については開催の1週間前くらいにお知らせをさせていただきます。
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また今日もぱたぱたと陽に照らされている
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